筋肉の構造・役割と筋出力のメカニズム

日常生活動作と筋肉

一日の生活の中で、私たちはさまざまな動作を行っています。日常的な生活動作

が実行できることは、他人の手助けなしに独立して生活するために必要なことで

す。日常生活の中で行われる動作も、スポーツで行われる動作と同様に、骨格筋

の働きによります。普段とりたてて意識することもない代表的な日常生活動作

と、その動作を生み出している骨格筋の働きについてみることにします。

@「立つ」ための筋肉

人間は二本の脚だけでからだを支え、移動する能力を身につけました。人間なら

ではの直立二足歩行です。この直立姿勢と二足歩行を基礎に、人間は多彩で多様

な活動能力を獲得してきました。本来、前脚であった上肢がからだを支える役割

から開放されて、ものを巧みに扱う操作能力を獲得しました。脳を身体の重心の

最上部に置くことによって、飛躍的に脳の発達をもたらしました。しかし、四足

から二足へと体幹を水平から垂直に立てたことにより、その分、力学的に不利な

点が生まれました。それは直立姿勢の不安定です。(74)

四足獣は重心が低く、しかも接地面積が広いので安定した姿勢が保持できます。

これに対して、二足の直立姿勢をとるようになった人間は重心の位置が高くな

り、しかも接地面積が著しく狭められました。そのために四足獣に比べて不安定

な姿勢をとることになってしまいました。この欠点に打ち克つために、人間は直

立姿勢に応じた「抗重力筋」を発達させてきました。抗重力筋にはいろいろな筋肉

があります。(75)

 

その中でとくに重要な筋肉は、脊柱をまっすぐに立てるために働いている脊柱起

立筋です。脊柱とこれを支える筋肉を帆柱とは率なの関係に置き換えると、人間

の立位姿勢は背中側とお腹側の両張り綱で支えられているのではなくて、背中側

の一本の張り綱で支えられている状態に似ています。(76)

 

脊柱起立筋は、この背中側の張り綱の役割を果たしているのです。基本的な立位

姿勢では脊柱起立筋が活発に活動しますが、楽な姿勢になると腹筋が活動するよ

うになっています。休めの姿勢では、体重をかけている側の支持脚の腓腹筋と前

脛骨筋が活動し、体重をかけていない休足側のし下肢筋はほとんど活動しませ

ん。両足を軽く開いて両手を腰の後ろで組んだ立位姿勢では大腿二頭筋、腓腹

筋、ヒラメ筋のほかに大腿四頭筋、前脛骨筋の活動が加わってきます。

A「あるく」ための筋肉

子供の平均的な発育をみると、生後二ヶ月で音のするほうに向き、三ヶ月で声を

立てて笑い、四ヶ月で首がすわり、六ヶ月~八ヶ月でハイハイができ、満一歳を

過ぎた頃から歩き始めます。その後、歩行動作は次第に洗練されて、自分の意思

通りに歩けるようになります。人間は、他の動物のように四本の足でからだを移

動させるのではなく、二本の足で立って移動します。これを「直立二足歩行」とい

います。直立二足歩行は人間に独特の動作です。二足歩行を行うことができるた

めには、下肢の筋肉が二足歩行に合うようにできていなければなりません。

(1)  足の筋肉

二足歩行は四足歩行に比べて不安定で、かつ大きな衝撃力を受けます。この欠点

を解消するために、足には「土踏まず」があってアーチをつくっています(77)

 

アーチは骨の間に張られた筋肉によって構成されています。そのために歩行のと

きに足に力が加わるとアーチにひずみが起こります。このことが足底の柔軟性を

生み、歩行の安全性と、十分な推進力を得るのに役立ち、さらに着地のときに生

じる衝撃をやわらげてくれます。人間の足にはは内側アーチ、外側アーチ、前側

アーチの三つのアーチがあり、それぞれはいくつかの筋肉で形成されています

(78)

内側アーチは長脛骨筋、長母指屈筋、母指外転筋などで形成されています。土踏

まずの基本となる形をつくっているのがこの内側アーチです。外側アーチは短脛

骨筋、長脛骨筋、小指外転筋などでつくられています。このアーチは、ふくらは

ぎにある腓腹筋やヒラメ筋の活動による歩行の推進力を伝達しやすいように、た

いへん強固なつくりになっています。前側アーチは主に母指内転筋でつくられて

います。

(2)  脚の筋肉

歩行で活動する筋肉は、歩き方、歩行速度、履物、歩き癖などによって異なりま

す。しかし、自然の歩行で活動する筋肉の種類や活動の時期と程度は、おおむね

類似した傾向がみられます。その特徴をまとめると次のようになります。

一般に、歩行は「立脚相」と「遊脚相」に分けられます(79)

 

それぞれの相において下肢のさまざまな筋肉が活動し、歩行における➀安定性A

加速性B減速性の三つの役割を果たしています。股関節の内・外転筋郡は立脚相

の初期と末期に活動して、骨盤を安定させます(80)

 

大腿四頭筋とハムストニングスは遊脚相から立脚相へ移るときに収縮し、遊脚相

での下肢の振り子運動を減速させます。また、これらの二つの筋肉が同時に働く

ことによって、股関節と膝関節の安定性を保ちます(81)

   

下腿三頭筋は立脚相の末期から強く働き、足で地面を強く蹴り出して遊脚相に移

るのに役立っています(83)

 

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